クラッシングとファストトラッキングについて

クラッシング(Crashing)とは

クラッシングとは

クラッシングとは、追加資源を投入することで、プロジェクト全体のスケジュールを短縮する技法です。
特に、クリティカルパス上のアクティビティに追加資源(人員、資金)を投入することで、効果的に工数の短縮を図ります。
また、担当者が効率よく働くために必要なツールを導入することも、広義にはクラッシングに含まれます。

【語源について】
クラッシングとは、英語の「crashing」の音写です。
crashは、粉砕、衝突などの意味があり、スケジュールを破壊するように聞こえますが、こちらの意味ではありません。
crashという言葉には、「押しかける」「短期集中」「応急の」という意味があります。
たとえば、"a crash program"という言葉は「 (工事などの)突貫計画」という意味になります。
クラッシングは、あくまでも当初のプロジェクトの範囲は変えずにスケジュールを打破するための方法です。


クリティカルパス(critical path)とは

クリティカルパスとは、プロジェクトの全工程を最短時間で完了するために重要な作業経路のことです。
クリティカルパスは、直訳すると「極めて重要な道筋」という意味です。


クラッシングのメリット

クラッシングのメリットは、必要になるコストを最小限に抑えながらスケジュールを短縮することです。
PMBOKではクラッシングテクニックを、「最小増分コストでプロジェクトスケジュールを短縮する方法」と定義しています。


クラッシングのデメリット

基本的に、クラッシングは、人的・金銭的なコストが追加発生することになります。
ステークホルダから見た場合、プロジェクトに対するコストダメージを発生させていることになります。
場合によっては、コストアップの交渉・承認を得ることは、PMのマネジメント能力に対する評価を下げることになります。

なお、クラッシングを実施する際、人的リソースを確保することは非常に難しいことです。
適切な人材でなければ、クラッシングによって必ずしもスケジュールが改善するとは限りません。
最悪の場合、コストダメージのみ発生させてスケジュール短縮できない可能性まであります。


ファストトラッキング(Fast Tracking)とは

ファストトラッキングとは

ファストトラッキングとは、当初計画では直列に並んでいた作業を同時並行的に行ったり、作業の前後を入れ替えたりすることで、プロジェクト全体のスケジュールを短縮する技法です。
特に、クリティカルパス上で順次行う予定のアクティビティを並行して実行することによって、効果的に工数の短縮を図ります。
なお、全体の設計が完了する前に仕様が固まっているモジュールの開発を開始することも、広義にはファストトラッキング技法といえます。


ファストトラッキングのメリット

直接的にコストを増やさずに工期を短縮できる点がファストトラッキングの最大のメリットです。
場合によっては、人的リソースのやりくりによって、追加の金銭的リソースを発生せずに工数を捻出できることもあります。


ファストトラッキングのデメリット

ファストトラッキングの最大のデメリットは、作業の破棄や手戻りが発生するリスクがあることです。
ファストトラッキング開始後に前工程で重大な変更や修正などが発生した場合には、進めていた次工程の完了部分を破棄して、作業のやり直しをしなければなりません。
全体工数で見ると、無駄な作業を発生させて、人的リソースを浪費したことになります。

また、ファストトラッキングは基本的に人的負担を発生させます。
開発担当者の負担だけでなく、プロジェクト管理を実施するPMも調整作業などで大きな負担をかけることになります。
さらに、連携が円滑に進まないとプロジェクトに混乱が生じることがあるため、十分なコミュニケーション手段の整備や配慮も必要になります。


備考

ブルックスの法則とは

ブルックスの法則とは、「遅れているソフトウェアプロジェクトへの要員追加は、プロジェクトをさらに遅らせるだけである」という、ソフトウェア開発のプロジェクトマネジメントに関する法則です。
1975年に出版されたフレデリック・ブルックスの著書「人月の神話」で言及された言葉です。

プロジェクトに人員を追加すると全体として必要となる労力が増加する要因として、以下の3点を挙げています。

  • タスク分解、再配置に費やされる労力とそれによる作業の中断
  • 新しい人員への教育(戦力化するには時間がかかる)
  • コミュニケーションコストの増大



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