睡眠相後退症候群
睡眠相後退症候群(すいみんそうこうたいしょうこうぐん)
睡眠相後退症候群(Delayed sleep-phase syndrome)とは
睡眠相後退症候群とは、明け方近くまで寝つけず、一旦眠り始めると昼過ぎまで起きられない、という睡眠に関する慢性的な障害です。
概日リズム睡眠障害(体内時計のリズムの乱れに基づく睡眠障害)のひとつと位置づけられています。
この障害は思春期から青年期に発症することが多く、加齢と共に改善されていく傾向があります。
この障害は、モンテフィオーレ医療センターのElliot D. Weitzman博士らによって、1981年に初めて公式に記述されました。
睡眠相後退障害 (delayed sleep-phase disorder)とも呼ばれます。
睡眠相後退症候群の症状
睡眠相後退症候群の主な症状は、就寝・起床時間が遅くなるということです。
多くの場合、深夜から朝方(午前3時~6時)の、ある一定の時刻になると、ようやく寝付くことができます。
それまでは、ベッドに横たわり寝ようとしても、意識が覚醒してしまい数時間に渡って寝れない状態が続きます。
そして、遅くに眠ってしまうため、早朝などの社会生活に必要な時刻に起床することが困難となります。
無理をして起床したとしても、眠気や頭痛・食欲不振・易疲労感などの身体的不調のために、勉学や仕事を行うことが困難な状態になります。
症状が続く場合には、定刻に登校や出社することができず、正常な社会生活を送ることが困難になってきます。
睡眠相後退症候群の特徴
睡眠相後退症候群は、それ自体は症状によって苦しむことはありません。
しかし、社会的な制約あることにより、結果として症状が非常につらく感じることがあります。
この障害を発症しても、早朝もしくは午後ならば、健康な常人と比較しても同等程度もしくはそれ以上によく眠ることができます。
つまり、障害を発症しても睡眠の質自体は悪くなく、睡眠自体は比較的安定して得ることができます。
自分の睡眠スケジュールに従って生活できる時では、規則的によく眠ることができます。
例えば、仕事が夕勤や夜勤であれば、問題なく社会生活を送ることもできます。(ただし交代勤務睡眠障害などの別の症状がでる可能性はあります。)
極端な話、ニートやフリーター、引きこもりならば、特に障害とはならない症状となります。
睡眠相後退症候群の発症について
概日リズム(circadian rhythm)
概日(がいじつ)リズムとは、約24時間周期で変動する生理現象のことであり、体内時計とも呼ばれます。
これは、一定時間が経過すると自然と眠くなり、一定時間眠ると自然に覚醒するサイクルリズムを作り出すものといわれています。
このリズムは、動物、植物、菌類、藻類、バクテリアなどほとんどの生物に存在している生体メカニズムとなります。
人間の概日リズムは、個人差はあるものの、一般的には24時間よりも長い周期であるといわれています。
以前は「人間の体内時計は25時間である」が通説でしたが、その後の実験や研究では「平均的には24時間10分程度」と言われています。
概日リズムの周期は、光パルスや暗パルスなどのさまざまな刺激(同調因子)によってリセットされます。
同調因子は、太陽の光を浴びること、食事や運動すること、仕事や学校などの社会的な活動を行うことが該当します。
毎日同じ時間に起床して、食事をとり、日光を浴びる(通勤通学)ことで、概日リズムを整えることができます。
概日リズム睡眠障害とは
概日リズム睡眠障害とは、概日リズムが乱れることで発生する睡眠障害のことです。
体内時計の周期を外界周期(24時間)に同調させることができないことで、眠れないという障害が発生します。
地球の1日の周期は24時間であり、人間の体内時計とは根本的に"ズレ"があります。
そこで、人間は規則正しい生活をとることで、概日リズムのリセットを行い、外界の24時間周期に同調しています。
そのため、リズムのリセットができない場合には、外界周期に同調できず、望ましい時刻に入眠・覚醒することができなくなります。
また、無理して外界の時刻に合わせて覚醒しても、眠気や頭痛・倦怠感・食欲不振などの身体的な不調が現れてきます。
睡眠相後退症候群は、内因性概日リズム睡眠障害に分類され、概日リズム睡眠障害のひとつです。
概日リズム睡眠障害には、以下のように様々な分類があります。
名前 | 症状 | 原因 |
---|---|---|
睡眠相後退症候群 |
明け方近くまで寝つけず、一旦眠り始めると昼過ぎや夕方まで起きられないという状態になる。 無理をして起床すると、眠気や強い倦怠感などの症状がみられる。 |
概日リズム(体内時計)が遅れており、睡眠が遅い時間帯のほうにずれてしまう。 徹夜や夜型の生活リズムになるために、入眠時間が遅くなることから発症します。 |
睡眠相前進症候群 |
夕方から眠くなり、夜に起きていられなくなり、早朝に目が覚めてしまう。 高齢者に多く、早い場合には50代から発症することもあります。 |
概日リズム(体内時計)が進んでおり、睡眠が早い時間帯のほうにずれてしまう。 加齢により必要となる睡眠時間が短くなること |
非24時間睡眠覚醒症候群 | 睡眠の開始時間、覚醒する時間が毎日1~2時間ずつ遅れていく。 |
概日リズム(体内時計)がリセットされない。 若年者(特に大学生)が長期の休暇等で昼夜逆転生活を送ると出現することがある。 |
不規則型睡眠覚醒 |
睡眠と覚醒の間隔が不規則になる病態です。 夜間の不眠や、日中の眠気、昼寝の増加などがみられる。 |
概日リズム(体内時計)がリセットされないため。 疾患や体力低下、加齢によっても発症します。 |
交代勤務睡眠障害 | 夜間不眠、日中の眠気、作業能率の低下、倦怠感、食欲不振などの身体・精神症状が出現する。 | 警察、消防隊員、医師、警備員、運送・運転手、宿泊関係などの職業に従事することで発症します。(職業病) |
メラトニンとセロトニンについて
概日リズムには、「メラトニン」と「セロトニン」というホルモンが大きく影響しています。
特に、概日リズムのリセットは、これらのホルモンの分泌によってが行われます。
メラトニンは「睡眠ホルモン」とも呼ばれるもので、夜になると分泌され、血圧や体温・脈拍を下げて、睡眠を誘発します。
正常な状態では、就寝時間の1~2時間前にはメラトニンが分泌されるようになり、覚醒力が低下して睡眠に繋がります。
メラトニンが少ないと体が睡眠態勢にならず、寝付けなくなってしまいます。
セロトニンは、日光を浴びること分泌されるホルモンであり、メラトニンを作る材料でもあります。
セロトニンが分泌されることで、血圧・体温が上昇して体が活動状態になります。
日中にセロトニンがしっかり分泌されていると、夜にメラトニンが正しく分泌されるようになります。
睡眠相後退症候群の治療方法
体内時計の調節異常
体内時計を調節するのに必要な外部からの刺激は「日光」です。
早朝7時に起床したら、朝日を浴びながら15分ほど散歩します。
これによりセロトニンが分泌され、体内時計が自動的に調整され、体内時計の乱れが修正されていきます。
もしも朝散歩ができない状態であれば、それは鬱病などの精神的な病の可能性がありますので、医者に行くのが正しい対処です。
時間療法
時間療法とは、入眠時刻を徐々に遅らせることで、自身が望む睡眠時間帯に固定する治療法です。
睡眠時間帯を早めることは大変困難ですが、睡眠を少しずつ遅らせることは比較的簡単です。
まずは、時間を取れるようにあらかじめ長期休暇を取得する準備をすることから始めます。
例えば、既に昼夜逆転してしまっているならば、1日当たり3~4時間ずつ入眠時刻を遅らせてゆき、約1週間かけて入眠時刻を望ましい時間帯に固定します。
ただし、しばらく睡眠時間帯が正常化しても、不規則な生活をすると再び睡眠が遅れてしまうことが多いので、睡眠時間帯が安定するまで注意が必要となります。
高照度光療法
高照度光療法とは、専用の器具を用いて2500ルクス以上の高照度の光を1〜2時間ほど目から取り入れ、生体リズムの位相を前進させることで、乱れた体内時計をリセットする睡眠障害の治療法です。
専門的な治療法であるため、まずは心療内科を受診してください。
メラトニン投与
メラトニンを少量用いると、睡眠リズムを前進させる効果があります。
強制的に概日リズムを作り出して、症状を治療する方法です。
ただし、海外とは異なり、メラトニンは日本では販売が禁止されています。
まずは内科もしくは心療内科を受診してください。