仏教の宗派分裂について

宗派とは

宗派(しゅうは)とは

宗派とは、歴史的な経緯を経て生まれた、同一宗教内の分派のことです。
これは、教え対する解釈や思想の違いにより組織分裂して、それぞれ異なる教義を持つに至った状況となります。
なお、同じ宗教内で別派に移ることを「宗旨替え(しゅうしがえ)」といいます。


宗派分裂とは

宗派分裂とは、宗教団体が分裂することです。
主な宗派分裂の原因は、教義の違い、歴史的な背景、地域文化の影響、 内局の権力闘争や財産争いなどです。
分裂などの騒動は、仏教だけでなく、キリスト教やイスラム教などのさまざまな宗教において発生しています。


根本分裂と枝末分裂

根本分裂(こんぽんぶんれつ)とは

根本分裂とは、仏教教団が「上座部(じょうざぶ)」と「大衆部(だいしゅぶ)」の二派に分裂した出来事のことです。
これは釈尊入滅から100年経過した頃の出来事であり、分裂の原因は戒律や教理の解釈の違いによる対立とされています。
もともと教団は早い段階から、保守的な長老たち(上座部)と革新的な一般僧(大衆部)が対立する傾向にあったといいます。


枝末分裂(しまつぶんれつ)とは

枝末分裂とは、根本分裂の後に発生した、教団が細かく分裂していった出来事のことです。
根本分裂で上座部と大衆部に大きく分かれた後、さらに分裂を繰り返し、20の部派が成立したと云われています。
これら多くの部派に分裂していた時期の仏教を「部派仏教」もしくは「アビダルマ仏教」といいます。


仏教の宗派が枝分かれた歴史

釈尊の入滅後、弟子たちは教えをまとめつつ、初期の教団を形成します。
しかし時間が経つにつれて、教団内部で思想の違いから対立が発生し、それぞれが個別に発展を遂げることとなります。
さらには、国から国に伝達されていき、それぞれの地域で独自に発展を遂げることとなります。

時期 出来事
紀元前383年 釈尊の入滅。
翌年、第一結集(伝えられた説法を整理して統一を図るための仏典編集作業)を実施。
紀元前3世紀 第二結集の後、根本分裂(教団が上座部と大衆部の2つに分裂した出来事)が発生。
1世紀 東南アジア(スリランカ、ミャンマー、タイ)に上座部仏教(小乗仏教)が伝わる。
2世紀中ごろ 大乗仏教の成立。
4世紀前半 仏図澄(ぶっとちょう)が中国で仏教を布教。
仏図澄自身は経典の翻訳も著述もしなかったが、その門下たちが中国仏教の基礎を築いていった。
4世紀後半 鳩摩羅什(くまらじゅう:344年 - 413年)が仏典の漢訳を行い仏教普及に貢献。
『妙法蓮華経』『仏説阿弥陀経』『摩訶般若波羅蜜経』などの経典を訳出。
5世紀中ごろ 中国で仏教が広がる。
6世紀ごろ 538年(または552年)に日本への仏教伝来。
7世紀中ごろ 玄奘・三蔵法師(602年 - 664年)が『般若心経』『大般若経』などの経典を訳出。
7~8世紀頃 密教がインドで誕生。その後チベットや中国へ伝わっていった

上座部仏教と大乗仏教

上座部仏教(じょうざぶぶっきょう)

上座部仏教とは、出家して修行を積むことを通してのみ悟りに達することが出来ると説く仏教の宗派です。
この宗派では、戒律を厳格に守ることを重んじる保守的な思想を持つという特徴があります。
なお、上座部仏教はミャンマー、タイなど東南アジア方面にも伝播したため、「南伝仏教」とも呼ばれます。

上座部仏教は、「小乗仏教(しょうじょうぶっきょう)」とも呼ばれます。
小乗とは、「少人数しか乗れない」乗り物を指しています。
この呼称は大乗仏教側からの蔑称であり、上座部仏教はごく少数の限られた人しか救われないと揶揄したものです。


大乗仏教(だいじょうぶっきょう)

大乗仏教とは、出家・苦行せずとも、誰でも救済されると説く仏教の宗派です。
この宗派では、菩薩という概念を取り入れ、一切の衆生の救済を掲げるという特徴があります。

大乗とは「大人数で乗れる」乗り物を意味し、「大きな船」で彼岸に渡れることを意味します。
なお、中央アジアからシルクロードを経て朝鮮半島、日本に伝播したため、「北伝仏教」とも呼ばれます。

大乗仏教の起源は不明です。これまでも様々な起源説が提起されますが、2025年時点でも定説が覆され続けています。
例えば、明治時代には大乗仏教の起源を大衆部とする定説がありましたが、1990年代には根拠が薄いと否定されています。
他にも、在家集団から生まれたとする説や部派仏教が発展したものとする説などありますが、未だ起源は判明していません。


上座部仏教と大乗仏教の違い

上座部仏教 大乗仏教
目的 出家して修行を重ね、解脱(涅槃)を成道すること。 すべての人を救済すること。
信仰の対象 釈尊のみ。 釈尊、如来、菩薩、明王、その他尊格を含む。
経典 パーリ語で書かれた原始仏典 サンスクリット語などの大乗仏典を翻訳したもの。
戒律 釈尊の時代に定められた戒律 宗派ごとにさまざまに解釈する。
到達点 阿羅漢(あらかん)になること 菩薩(ぼさつ)になること
救われる者は? 出家して修行した僧侶本人のみ すべての人(出家、在家を問わない)
在家信者(僧侶以外)は? 寺院への寄進や善行で功徳を積み、来世の幸福を願う。 如来や菩薩に祈り、成仏することを願う。

密教と顕教

密教(みっきょう)とは

密教とは、大日如来を本尊として厳しい修行や儀式を重視する、仏教の一派です。
密教は「秘密仏教」の略であり、教えを一般へ公開せずに、師から弟子へ直接伝える秘密性を持つ特徴があります。

密教は、7世紀頃に古代インド的な儀礼や呪術的な要素を取り入れて成立した、大乗仏教から発展した宗派です。
インドにおいてヒンドゥー教が拡大する中で、当時の社会世相に合わせて発展した思想と云われています。
その後、チベットや中国へ伝播し、それぞれの土俗信仰などと融合しながら独自な発展をとげ、日本にも伝わりました。


顕教(けんぎょう)とは

顕教とは、ブッダの教えを言葉や文字で「顕れる(現れる、明確にする)」ようにした教えのことを意味します。
これは、大乗仏教の中の二大流派にひとつと見なして、密教以外の全ての宗派を指します。

顕教は大衆向けの宗派であり、教えを言葉や文字でわかりやすく伝えるという特徴があります。
「顕教」という言葉は、密教の対語として空海が名づけた呼び方といわれています。



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